ただいま引っ越し中です。
昨日まで住んでた家から家具やピアノや洋服がなくなった。
ほこりに混じって、しばらく救出されていなかった鉛筆や、
ボタンやお菓子の袋がそちこちから出てくる。
そういう小さなゴミと一緒に、捨てるべきか迷っていたものをゴミ袋に詰める。
そうやって溜まったゴミ袋がそちこちに散乱しているのもあって、
今まで封じてきた土足で家の中を歩くようになった。
ずっと日常を過ごしてきた場所が、急に殺伐とした風景に変わる。
魂のなくなった家。と言ったら良いのだろうか。
さらに拍車をかけるような出来事があった。
ごみ捨てから帰ってきたら、お隣の奥さんから
「悲しいお知らせがあるのよ。私引っ越しするの。9月1日で新しい家も借りたの」
というではないか。
「...ええ?」という顔をしている私を見て一言。
「別居することになった」
お隣さんはティーネージャーの子供がいる、3人家族だった。
このコミュニティーに20年住んでいる古株さんだ。
このご夫婦が別れることになると思わなかった。
とはいえ、最近、皿が5枚くらい割れる音と怒鳴り声を聞いたのは確かだ。
もともと感情豊かな奥さんなので、まあそういうこともあるのかな、くらいに思っていた。
隣の家でも、夫婦のことは本当にわからない。
少しこのコミュニティーのことに触れておくと、
スコーミッシュがアクティブでエネルギッシュで法整備されている都会だとしたら、
私の住んでいるところは全てに置いてレイドバックなオーシャンコミュニティー。
ヒッピーというにはロックすぎるのだが、大げさに言えば
「いちいち細かいことは言わなくてもいいだろう我がネイバー達よ。
行政に介入させるな、自分たちで自治を!」
みたいなブリタニアルールというものがあり、
街では苦情がくるようなことも、緩く許されているところもあったり、
口は少々悪いけど、心意気のある、ビンテージ好きな古株さんも多く住んでいるコミュニティなのだ。
ご多分に漏れず、お隣さん一家もブリタニアにどっぷり染まっている感じだったし、
ご近所に友達も多いから、彼女がこのコミュニティーを去ることになるとは思いもしなかった。
そういうわけで、時を同じくして私達も引っ越しの準備、
その横で彼女も友人の手を借りて引っ越しの準備、という不思議な光景となった。
自分たちも引っ越しするし
お隣さんだって別居する
コロナウイルスだって発生する
娘のウォルドルフスクールの校長先生も変わるし
(創立当時からずっといた先生だからびっくりした)
そして
5年前に交通事故にあった友人が亡くなったという知らせを受けた
何一つとして昨日と同じなんてことはない。
当たり前の日常が続くなんてこともない。
ここまで
書いてみて思ったけど、私は”そこに存在していた人の気配”が変わっていくことに
なんともいえない気持ちになるようだ。
私はその人が残した足跡であったり、
連れてくる風の匂いであったり、湿度であったり、
そういうものを覚えておきたい。
それが時間とともに消えてしまうような、儚いものだったとしても。
しばらくの間賃貸することになった、エアコンの効いた新築の家の窓から
昨日から続く過去を振り返ると
なんとも表現できない不思議な気分になる。
何かが大きく変わりそうな気配がする2020の晩夏です。
ミキティ、安らかにそして自由に