その男性の名は藤戸幸夫さんといって、生まれは旭川であるらしい。
ユキオさんの作品は、アイヌ紋様をベースにした木工小物。
木工小物 x アイヌというと、よくあるお土産やさんにあるものを想像してしまいがちだと思う。
だけど、ユキオさんの作品の美しさ、緻密さは、”よくあるそれなりに美しい木工品”との比ではなく、
むしろ突き抜けるほどの完成度とクオリティーである。
私は、そういう作品をマジマジと見たことがなかったので、素人の私には国宝級にすら見えてくる。
写真でもそのクオリティーは十分伝わると思うのだけど、
実際手にとってみるとやすりをかけたかのように、手触りがツルツル。
聞いてみると、やすりは一切使っておらず、木の目を読みながら彫るとそういう手触りになるとのこと。達人の技である。
ヘマタイトをはめ込んだ木箱 もちろん釘は一切使ってません。 |
ユキオさんは、アイヌであるらしい。
らしいというのは、ユキオさん自身は”アイヌ”という肩書きをあまり好んでいないようであった。
最近は少数民族文化がファッション的に捉えられ、
アイヌも然り、そういう取り上げ方をされる事がよくあって、特に日本古来の少数民族という面で、変に神格化されてしまうこともあるそうだ。
実際のところファッションでもなんでもなく、長い間迫害と差別を受けながら、
薪や山菜をとったりと北の厳しい自然と共に暮らしてきている側としては、
アイヌだからと表面だけすくって誇張されるのはなんだかなあという思いがあるのかもしれない。
もしくは、私たちが自分たちが和人だといちいち説明しないのと同じで、ユキオさんにもそういうものは必要ないのかもしれない。
そもそも、アイヌ語でアイヌとは人間という意味なのだ。
かくゆう、ユキオさんは、「アイヌの言葉や暮らしのことは全部取られちゃったし、わかんねー。ただ山入るときは、ありがとーって手を合わせるだけだー」というけれど、
ユキオさんの暮らしや、作品には、
どうしたってアイヌの魂が宿っていて、
それが人を魅了してやまないのだから、
私がここでユキオさんとアイヌを繋げて書くことを許してほしい。
伊勢に卸しているという手鏡 |
さて、前置きが長くなってしまったけど、ユキオさんの代表作「マキリ」の紹介をします。
マキリというのは、アイヌ語で「小刀」を意味し、日常の中で様々な用途に使われた道具。狩猟の時に腰に供えたり、女性が料理で使ったりもする。
このマキリが暮らしの中にあるということが、アイヌの暮らしがいかに自然と近いかを物語っている。
森によく入る人ならわかると思うけれど、
これ1本あれば万能というナイフは必須アイテムだ。
春には山で山菜をとったり、
夏には散歩道に生い茂る雑草を切ったり、
秋には木の皮をはいで繊維にしたり、
冬には仕留めておいた鹿肉を料理するときに使ったりと、
暮らしと自然が共にあるからこその大事な1本なのだ。
しかも、男性が女性に彫刻を施したものをプロポーズの際にプレゼントするそうだ。
女性はその彫刻の出来で男性の生活能力をはかり、女性は刺繍を施した衣装を男性にプレゼントするんだとか。
正直、便利で物が溢れまくっているこの世の中で、
マキリの世界観と共に、
マキリのある暮らしを想像でき、
もしくは実践している人はごく少数だと思う。
(私のブログを読んでくださる方はきっとわかってくれると思う!)
マキリでフレッシュな鹿肉を調理 |
そういう意味で、ユキオさんがマキリに込める思いが、
「わあ、すごい」とか「かっこい!」以上の、
深淵で広大で謙虚な”生き方”のメッセージとして伝わるようにと願ってやまない。
ちなみに、「ゴールデンカムイ 」という漫画の中でもユキオさんの作品が登場している。アイヌのこともたくさん描かれているので読んでみてくださいね。
最後に、なぜ私がここでユキオさんを紹介させて頂いているかというと、
純粋にユキオさんの作品や人柄に魅了されたからの一言に尽きる。
ただ、これだけの作品が世の中の人に広く知られることなく、
「知るひとぞ知る」で終わってしまってはいけないという熱い衝動に突き動かされたからですが、芸術品を見てこんな気持ちになったのは初めてかもしれません。
そしてこちらはお願いなのですが、
ユキオさんの作品と人柄に魅了され突き動かされ、ユキオさんのことを紹介してくれた友人のたばちゃんが、ユキオさんの作品の展示先を探しています。
もしピン!とくる場所やイベントをご存知の方、info@inokakuru-yuki.com までご連絡ください。イノカクル Yukiのウェブサイトはこちら
次の記事で、アイヌとBCの森の繋がりついて書きます。